協和医院 東京都台東区上野の総合内科

アルテミシニン(青蒿素)
発見50周年 Artemisinin

(1972年~2022年)
アルテミシニン(青蒿素)発見50周年を記念してDiscovery of artemisinin

アルテミシニン(青蒿素)は、1972年11月8日中国で最初に発見し、そして精製に成功した抗マラリア特効薬として、世界のマラリア治療と人類の健康のために重要な貢献をしてきた。

これは、屠呦呦(トゥ・ヨウヨウ)研究チームから中国と世界への贈り物なのである。

協和医院の創設者である鐘 裕蓉(シュウ ユウヨウ)は、その屠呦呦抗マラリア薬研究チームの主要メンバーの一人である。アルテミシニン(青蒿素)発見の第一人者として、彼女は自身のアルテミシニンにまつわる物語をこのように話す。

1965年、私は百年を超える歴史と伝統を有する四川大学生物学部を卒業した。在学5年間の30以上の学科において、多くの学術的権威の教授先生に恵まれ、彼らの厳しい教えのお陰で、私は幅広い基礎知識だけでなく、しっかりとした科学的研究方法や実験方法の基礎訓練を受けることができ、その後様々な分野の研究に参加するための強固な礎を築きました。

卒業後、私は中医研究院中薬研究所に配属された。文化大革命の時期であり、同期仲間の中には、政治案件調査を行っている人もいれば、大多数の人は幹部学校(知識人を再教育という名目で作られた施設)で労働改造を受けさせられていた。ベテラン研究員たちはみんな政治運動に動員され、本職としての研究業務が麻痺状態に陥っていた。

こんな非常な時期の1970年、幸運にも私は「熱中症の予防に効果的な漢方薬の研究」(中国人民解放軍軍事医学科学院との共同研究)という、研究所重要プロジェクトに参加する機会を得ました。

1971年、中薬研究所の抗マラリア薬研究チームのリーダーであった屠呦呦に指名され、私は抗マラリア薬研究開発のための「523研究チーム」に参加した。

屠呦呦の指導の下、研究チームは200種類以上の中薬生薬の380以上の抽出物に対するスクリーニングを行った。
ついにその年の後半に、屠先生がエーテルを用いた手法の青蒿抽出物の抗マラリア効果が確認され、 続いて中性有効成分のエーテル低温抽出物を得ることができ、ラットのマラリアモデルおよびサルのマラリアモデルに対する抑制率はいずれも100%に達するという満足のいく結果を得られた。

次なるステップの臨床試験のマラリア患者用と健康ボランティア対照者用に、大量の青蒿抽出サンプルが必要になった。期限が迫る上、人員不足であったため、私たちは自分の足で中薬薬局に出向いて青蒿を大量に購入し、工場に持ち込んで粉砕加工をしてもらい、それから実験室に戻ってそれらを幾つもの大きな陶器丸かめに分けて入れ、エーテルに浸して抽出物の作製に取り掛かった。
青蒿エーテル中性抽出物を得るため、我々は実験台に分液漏斗を何列も並べ、私と技術者の崔淑蓮(ツェースレン)は、ライン上の流れ作業のように、順次エーテル抽出液や炭酸水素ナトリウム水溶液を分液漏斗注入し、振って、相分離まで数分間待ち、流して、また最初から繰り返す作業をやり続けた。

こうして刺激性の強い溶媒を使用した実験に長く携わり続けてきた私ですが、後に2001年のある日、激しい咳の後、大量に喀血し、肺胞の一部が破裂したことが判明した。 日本国立がんセンターでの検査で気管支内に腫瘍を認め、手術で切除した。 医師を驚かせたことに、気管支を完全にブロックした円錐形の腫瘍の正体は、「炎症性」の偽腫瘍であると病理診断で示したのだ。これは、気管が異物刺激に長期間さらされることによる稀な症例であり、研究観察対象として、現在でも半年ごとに再検査を受けています。さらに恐ろしいかったことに、手術を受けた際、以前に多くのエーテルを吸入したせいで、私の身体は麻酔薬に対する反応が鈍く、麻酔効果を得るために過量投与せざるを得なく、よって一過性の脳酸素供給不足状態に陥り、危うく植物人間になるところだった。また、肺葉2つと葉気管支を切除していたため、風邪を引きやすく、息切れになりやすい身体になってしまった。

研究チームメンバーたちは力を合わせて根気強く実験研究を続けた結果、ようやく臨床実験に十分な量の青蒿エーテル中性抽出物を得ることができた。

1972年8月、屠呦呦は自らこれらの抽出物を携えて海南(省)昌江(県)のマラリア流行地域に赴き、三日熱マラリア、重症マラリア患者に投与し、臨床治療効果を証明し、中薬抗マラリア薬研究開発の重要な一歩を踏み出した。

屠先生が臨床試験で研究所を離れていた間、倪慕曇(ニームイェン)がチームリーダー代理として加わり、私と崔淑蓮を率いて、低温乾燥した青蒿エーテル中性抽出物をもとに、有効単体の分離を様々な試みを行った。

倪先生は、青蒿エーテル抽出物の中性分液とポリアミドを均一に混合させた後、47%のエタノールで溶出し、溶出液を濃縮させてからさらに抽出する方法で、抗マラリア効果を一段と高めることができた。
その後、アルミナ、ポリアミド、珪藻土などを吸着剤としてカラムクロマトグラフィーを用いた濃縮液の分離を試みたが、結晶体を得ることはできなかった。 私と崔淑蓮も、倪先生のプロトコールに従って分離試験を繰り返し行い、一向に結晶体を得ることはできず焦っていた。

523プロジェクトに対する使命感から、実験をこなす以外に、私は自ら進んで文献や資料を読み漁った。その頃多く入手できた気管支炎治療薬に関するものから、シリカゲルは中性物質の分離に優れることを知り、それをヒントに独自に新しい分離試験プロトコールをデザインし、崔淑蓮と一緒に、これまで研究チームで用いたことのないシリカゲルを担体とした青蒿抽出液の分離、酢酸エチル・エーテル(後にエーテルの代替として石油エーテルを使用)溶媒を移動相とし、示差移動による化合物の分離、溶出を行った結果、わずかな固体物を得ることができた。さらに注意深く示差移動を細かく調整していき、とうとう1972年11月のある日(はっきりした日付は覚えていない)3つの結晶体を得ることに成功した。

その後、マラリア感染モデルマウスに対する実験によって、「結晶Ⅱ」と呼ばれていた結晶体は抗マラリア効果を有する単体であることが証明され、後にアルテミシニン(青蒿素)と命名された。

結晶体が得られたその日、私は崔淑蓮とともに喜びのあまり涙が溢れ、走ってみんなに朗報を伝えていたことを覚えている。

青蒿から唯一の有効単体の分離に成功した最初の人として、私は自分が抗マラリア新薬アルテミシニン(青蒿素)の発見に心血を注ぎ、重要な貢献をしたことに対し誇りに思っている。


鐘 裕蓉(シュウ ユウヨウ)

鐘裕蓉、1965年四川大学生物学部植物専攻卒業(1960年同校入学)
中国中医科学院中薬研究所研究員、屠呦呦の抗マラリア研究チーム主要メンバー、アルテミシニンを発見した第一人者

集合写真

2015年11月
左3 屠呦呦、左2 倪慕曇、左4 鐘裕蓉

メダルの写真

メダル
協和医院本部保存